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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)6711号 判決 1999年11月17日

原告

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長

武建一

原告

板倉昇

原告

浅井正

原告

岡本登

原告

川口曻次

原告

吉田貞次

原告

上田裕康

原告

米田正人

原告

花原勉

右九名訴訟代理人弁護士

上原康夫

竹下政行

被告

甲野一郎

被告

甲野二郎

被告

甲野三郎

被告

甲野花子

右四名訴訟代理人弁護士

山崎武徳

福田正

草尾光一

村中徹

濱口廣久

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、各自、原告板倉昇、原告浅井正、原告岡本登、原告川口曻次、原告吉田貞次、原告上田裕康、原告米田正人の各人に対し、各二〇〇〇万円及び平成一〇年七月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告花原勉に対し、一二三六万六三七八円及び平成一〇年七月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、各自、原告全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部に対し、三〇〇〇万円及び平成一〇年七月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、浅井運送株式会社の従業員であった原告板倉昇らが、同社役員であった被告らに対し、同被告らが原告らに対して十分な説明をしないまま破産申立をし、企業閉鎖及び全従業員の解雇をしたことは取締役又は監査役としての事業継続義務、企業閉鎖に伴う説明義務及び解雇回避義務違反であると主張して、商法二六六条の三に基づき将来賃金相当額の損害賠償を求め、また、原告板倉昇らが加入する原告全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部が、被告らに対し、右解雇についての事前協議義務及び解決金支払義務の不履行を主張して商法二六六条の三に基づき損害賠償を求める事案である。

一  前提事実(当事者間に争いがない事実並びに証拠〔<証拠略>〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)

1  当事者等

(一) 原告板倉昇、同浅井正、同岡本登、同川口曻次、同吉田貞次、同上田裕康、同米田正人、同花原勉(以下、これらの原告を「原告板倉ら」といい、個別には氏のみで特定する。)は、浅井運送株式会社(以下「浅井運送」という。)にバラセメントタンク車の運転手として勤務していた労働者である。浅井運送は、バラセメントタンク車によるセメントの運送事業等を目的とする株式会社であり、もともとは有限会社浅井運送店として営業していたが、昭和五一年一二月二一日に株式会社に組織変更された。

原告板倉らは、原告全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「原告組合」という。)に加入し、原告組合の浅井運送分会を結成している。

(二) 被告甲野一郎(以下「被告一郎」という。)は浅井運送の代表取締役であった者、被告甲野二郎(以下「被告二郎」という。)及び同甲野三郎(以下「被告三郎」という。)は浅井運送の取締役であった者、被告甲野花子(以下「被告花子」という。)は浅井運送の監査役であった者である。

2  浅井運送の破産

(一) 浅井運送は、被告一郎、同二郎及び同三郎(以下、この三名を「被告一郎ら」という。)が平成八年七月一日に破産申立について同意し、同年七月八日、大阪地方裁判所に対して破産宣告の申立(以下「本件破産申立」という。)をした。

本件破産申立に基づき、大阪地方裁判所は、平成八年七月二九日、浅井運送に対し、「一件記録によれば、債務者が債権者約三九名に対し合計約一億七〇九五万円の債務を負担し、これが支払不能の財産状態にあることが認められる。」と認定して破産宣告をした(以下「本件破産宣告」という。)。

被告ら個人に関しては法的な倒産処理手続は行われていない。

(二) 本件破産申立は、債務超過を破産原因としてなされたものであり、その申立書に、負債として、原告板倉らを含む労働者に対する退職金合計一億二四二九万四三一三円が計上されている(<証拠略>)。また、浅井運送が破産宣告手続において大阪地方裁判所に提出した債権債務表には本件破産申立時の債権債務関係として、欠のとおり記載されていた(<証拠略>)。

債権(資産) 一億七五五三万四四五八円

債務(負債) 三億四六四八万六一二九円

解雇予告手当金 一一一七万九六九四円

退職金 二億三一三一万七六四九円

協定による退職金 一億二四二九万四三一三円

慣行による個人への解決金 七九〇二万三三三六円

慣行による労働組合への解決金 二八〇〇万円

債務超過額 一億七〇九五万一六七一円

(三) 本件破産宣告に対し、原告板倉らは、平成八年八月二六日、破産原因の不存在及び破産宣告申立権の濫用を主張し、本件破産宣告の取消しを求めて大阪高等裁判所に対して即時抗告をしたが、同年一二月二六日、原告板倉らの主張はいずれも認められず、右抗告は棄却され、本件破産宣告が確定した(<証拠略>)。

3  従業員の解雇

浅井運送は、平成八年七月一九日、原告板倉らを含む一四名の従業員全員に対し、同人らを同月二〇日付で解雇する旨の解雇通知を出した(以下「本件解雇」という。)。

原告板倉らは、平成八年九月三日、解雇無効を主張し労働契約上の地位保全等を求めて、大阪地方裁判所に対し仮処分命令の申立をしたが(<証拠略>)、平成九年一月七日に右申立を取り下げた(<証拠略>)。

4  原告板倉らの定年時期及び在職中の賃金額

(一) 浅井運送の従業員の定年年齢は満六〇歳と定められており、原告板倉らの生年月日及び定年に達する時期は次のとおりである。

原告 生年月日

六〇歳になる年月

定年までの期間

板倉 昭和和(ママ)一五年八月八日

平成一二年八月

四年一月

浅井 昭和一二(ママ)年一二月二六日

平成一八年一二月

一〇年五月

岡本 昭和二二年九月二三日

平成一九年九月

一一年二月

川口 昭和二四年一一月一六日

平成二一年一一月

一三年四月

吉田 昭和二二年七月五日

平成一九年七月

一一年

上田 昭和二二年六月三〇日

平成一九年六月

一〇年一一月

米田 昭和二三年七月二一日

平成二〇年七月

一二年

花原 昭和一二年一二月一五日

平成九年一二月

一年五月

(二) 原告板倉らの平成八年七月(本件解雇)時点での賃金月額の平均は次のとおりである。

原告 賃金月額平均

板倉 七一万五九三三円

浅井 六八万四二二六円

岡本 七七万〇七三五円

川口 七〇万二五二二円

吉田 七一万九二〇四円

上田 七四万二一二八円

米田 七一万七八六七円

花原 七二万七四三四円

二  争点

1  被告一郎らが、原告板倉らに対して、浅井運送に対する事業継続義務、原告らに対する企業閉鎖に伴う説明義務及び解雇回避義務違反の損害賠償責任を負うか。

(一) 責任原因の有無

(二) 損害額

2  被告一郎らが、原告組合に対して、従業員の解雇に関する浅井運送と原告組合との間の事前協議約款の義務違反の損害賠償責任を負うか。

(一) 右事前協議約款の対象に解雇(身分)が含まれるか。

(二) 被告一郎らに事前協議約款の実行義務違反があるか。

(三) 損害額

3  浅井運送が、原告組合に対して、解雇に伴い従業員一名当たり二〇〇万円の解決金を支払う旨約したか。

4  被告花子の監査役としての連帯責任の有無

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(一)について

(一) 原告板倉らの主張

浅井運送には、その経営に困難な面があったとしても、業績回復の可能性は高く、破産原因はなかったにもかかわらず、被告一郎らは事業継続義務を放擲し、従業員に対する説明義務や解雇回避義務を尽くさないまま、原告板倉らを解雇すること等によって破産原因を作出したうえで、本件破産申立をしたものである。

(1) 破産原因の不存在

ア 債務超過

浅井運送に対する破産決定では、債務超過額一億七〇九五万一六七一円と認定されているが、前記債権債務表に記載された負債のうち、慣行による個人への解決金七九〇二万三三三六円及び慣行による労働組合への解決金二八〇〇万円が債務ではなかったことは被告ら自身認めるところであり、これを除くと、債務超過額は、六三九二万八三三五円に過ぎない。

その他の負債の大部分は、原告板倉らを含む従業員に対する退職金等の労働債権であり、第一に本件解雇を前提とするものであり、第二に労働組合との協定による退職金額によって算定したものである。

したがって、本件解雇がなかったならば、債務超過はなかったことになる。

原告板倉らは、浅井運送の破産に伴って解雇されたのではなく、浅井運送は、原告板倉らを解雇したから破産することができたのである(ママ)

イ 支払不能

被告一郎は、本件破産申立後、浅井運送振出の額面わずか七六万円の手形を不渡りにするためわざわざ残高が十分あった当座預金から一〇〇万円を引き出し、意図的に支払停止を作出した。

(2) 浅井運送に対する事業継続義務

会社が窮状に直面した場合でも、代表取締役、取締役としては直ちに会社の業務を中止するべきではなく、第三者に対する損害が著しく拡大することが明らかである等の無謀の事態が予測されない限り、まず会社の経営の建て直しと業績の回復に努めるべきであり、それが会社に対する善管注意義務の一内容をなす(事業継続義務)。

浅井運送は、前述のとおり、従業員全員を即時に解雇しなければ、債務超過はなかったのであるから、浅井運送の経営に窮状があったとしても、なお経営の建て直しと業績の回復に至る客観的可能性は極めて高かったのであり、被告一郎らは、浅井運送の取締役として、浅井運送に対して事業継続義務を負っていた。

しかるに、被告一郎らは、本件破産申立に同意し、故意又は重大な過失により右事業継続義務を懈怠したのであるから、第三者である原告板倉ら従業員に対しても損害賠償義務を負う(商法二六六条の三)。

(3) 原告板倉ら従業員に対する説明義務及び解雇回避義務

ア 説明義務違反

被告一郎らは、代表取締役又は取締役として、浅井運送が倒産をするのか、倒産する場合にいかなる方法をとるか、倒産を回避するためにはいかなる方策があるのかといったことを、原告板倉ら従業員に対して懇切丁寧に説明する義務を信義則上負っていたし、そのような説明義務をはたすことは後述のいわゆる整理解雇の要件でもある。

しかるに、被告一郎らは、浅井運送が本件破産申立をすること及びしたことを原告板倉ら従業員に対して一切告げないまま、平成八年七月一日、本件破産申立に同意する旨の書面を作成し、その後、本件破産申立及び本件解雇に及んだのであり、右説明義務を故意又は重大な過失により懈怠した。

イ 解雇回避義務違反

本件破産申立は、前述のとおり、破産原因がないのになされたものであるから、本件解雇はいわゆる整理解雇である。整理解雇が適法であるためには、次の四要件を充たす必要がある。すなわち、人員削減の必要性、人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性(解雇回避義務の履行)、被解雇者選択の妥当性、手続の妥当性(労働協約上の定めの有無に拘わらず、労働組合又は労働者に対し、整理解雇の必要性とその時期、方法につき納得を得るために説明を行い、誠実に協議したか)である。

しかるに、浅井運送の経営が一定程度の窮状にあったとしても、浅井運送は被告ら浅井一族が経営する実質的には個人会社であり、被告らは浅井運送の敷地、建物その他多くの個人資産を保有していたのであるから、より一層の経費節減や個人資産を活用して金融機関から借入するなどして経営の安定を図り、事業を継続することは十分可能であったのであり、人員削減の必要性があったのか疑問がある。

仮に、人員削減の必要があったとしても、被告一郎らは、従業員に関連系列会社への出向、配転、希望退職の募集、労働条件の改定の提案等を全くしないまま本件解雇に及んでおり、原告板倉らに対する解雇回避義務を故意又は重大な過失により怠った。

(二) 被告らの主張

本件破産申立及びこれに伴う原告板倉らの解雇は、浅井運送が倒産状態に陥り止むを得ずなしたのであるから、被告一郎らには、原告らが主張するような故意又は重大な過失による義務の懈怠は存しない。

(1) 破産原因の存在

浅井運送は、納入先の減少により、平成五年八月一日から平成六年七月三一日にかけて一四一六万八五五九円の損失を出した。さらに専属の取引先であった住友大阪セメント株式会社(以下「住友大阪セメント」という。)から、大幅な運賃の値下げを実行されるなどしたことも加わり、平成六年八月一日から平成七年七月三一日にかけて五七七六万九六七二円、平成七年八月一日から平成八年六月三〇日にかけて四五二八万五九二六円の各損失を計上し、累積損失が一億一七二二万四一五七円となった。

浅井運送は、経営を継続すれば累積損失金が増加するため、会社を整理するしか方法がないと判断し、労働組合や取引先と再三交歩(ママ)を続けたが解決策が見つからず、手形の不渡りを避けられない状態となり、平成八年七月八日、やむなく大阪地方裁判所に対し本件破産申立をした。

浅井運送の資産は合計一億七五五三万四四五八円であるのに対し、債務は慣行による個人への解決金(被告ら役員に対する退職慰労金等)及び慣行による労働組合への解決金(これは浅井運送の債務ではない。)を除外しても合計二億三九四六万二七九三円であり、債務超過額は六三九二万八三三五円となる。

原告らは、未だ発生していない従業員の退職金まで本件破産宣告の負債に計上するのは不合理である旨主張するが、従業員に対する退職金債務を負債から除いて、なお、債務超過とならなければ破産宣告を受けられないとするならば、浅井運送のように資産の少ない会社においては従業員の退職金債権に対する優先配当の原資すら残せないこととなり、より不合理な結果となる。

また、手形の不渡りは故意にしたものではなく、引き出した預金は破産手続費用に充当した。

(2) 事業継続義務

被告一郎らは、輸送量や運賃の原状回復について住友大阪セメントと再三交渉し、浅井運送自体の買い取り先を捜すなど、浅井運送の営業を継続するべく種々の努力をしており、事業継続義務を尽くした。

原告組合が被告一郎らに求めたのは、被告らの個人財産を抛ってでも債務超過状態にある浅井運送の借金を返済せよというものであったが、取締役の事業継続義務は、取締役の個人財産を会社に提供することまでを要求するものではない。

(3) 説明義務及び解雇回避義務

ア 代表取締役や取締役が、従業員に対して、破産申立をするに至った経緯等を説明すべき信義則上の義務を負うことは認めるが、、被告一郎らは、平成六年一二月ころから同八年七月ころまでの間、再三にわたり、原告組合委員長武建一(以下「武委員長」という。)、副委員長吉田伸(以下「吉田副委員長」という。)及び書記長奥薗健児(以下「奥薗書記長」という。)らに対し、浅井運送の経営状況を報告し、その窮状を打開するための協議、交渉を続けてきており、事後的にも平成八年七月一五日、従業員に直接報告や説明をしているのであって、右説明義務違反はない。

イ いわゆる整理解雇は企業を存続させるための方策として従業員の一部を解雇するものであるが、本件解雇は、会社の総財産を清算する過程でなされた、破産に伴う全従業員の解雇であって、整理解雇ではない。

したがって、整理解雇の場合と同様の要件を満たす必要はなく、本件解雇に違法はない。

2  争点1(二)について

(一) 原告板倉らの主張

原告板倉らは、各自の定年までの期間からみて、少なくとも本件解雇から三年間(但し、原告花田は定年までの一年五か月間)は、平均月額賃金を得て就労することが見込まれたから、原告板倉らは、被告一郎らの事業継続義務、説明義務及び解雇回避義務違反により、少なくとも右期間分の賃金相当額の損害を被った。その額は、次のとおりである。

板倉 七一万五九三三円×三六月=二五七七万三五八八円

浅井 六八万四二二六円×三六月=二四六三万二一三六円

岡本 七七万〇七三五円×三六月=二七七四万六四六〇円

川口 七〇万二五二二円×三六月=二五二九万〇七九二円

吉田 七一万九二〇四円×三六月=二五八九万二二四四円

上田 七四万二一二八円×三六月=二六七一万六六〇八円

米田 七一万七八六七円×三六月=二五八四万三二二一円

花原 七二万七四三四円×一七月=一二三六万六三七八円

原告板倉らは、右損害の内金として各自二〇〇〇万円の支払を求める(但し、原告花原は全部請求として、一二三六万六三七八円である。)。

(二) 被告らの主張

原告板倉らについての損害の発生及び額は否認する。

原告板倉らの主張する説明義務等の懈怠と損害との間に因果関係はない。

3  争点2(一)について

(一) 原告組合の主張

昭和五二年五月一七日締結の原告組合と浅井運送との間の労働協約(<証拠略>。以下「本件協約」という。)の中央統一要求一四項には、「事前協議について会社は、移転、転勤、配置換、出向、降格、一時帰休、休業、解雇など現行の労働条件を変更するときは組合と誠意をもって交渉し、一致点を見つけるよう努力する。」と規定されており、浅井運送が組合員たる従業員を解雇する場合、原告組合と事前協議すべき義務を負っていた。

(二) 被告らの主張

(1) 浅井運送と原告組合は、本件協約の組合基本要求二項において、組合員の解雇(身分)については事前協議の対象としないこととして「組合員の賃金・労働条件の変更等については、労使が協議して解決するものとする。」と合意した。

その結果、本件協約の中央統一要求一四項の適用は排除されたのであり、解雇(身分)は事前協議の対象となっていない。

(2) 仮に、本件協約上解雇が事前協議の対象となっていたとしても、本件解雇は破産に伴う解雇であって、営業の停止と全従業員の解雇が予定されているのであるから、浅井運送には原告組合と事前協議をする義務はない。

4  争点2(二)について

(一) 原告組合の主張

被告一郎らは、事前協議をするべき意思決定をし、浅井運送をして事前協議をさせる義務を負っていたにもかかわらず、右義務を故意又は重大な過失により懈怠した。

被告一郎らは、実質的な協約当事者であるから原告組合に対して損害賠償責任を負担する。

(二) 被告らの主張

本件協約の当事者は浅井運送であって、被告一郎らではないから、同被告らに損害賠償責任はない。

5  争点2(三)について

(一) 原告組合の主張

被告一郎らの事前協議義務懈怠によって原告組合が被った無形損害は、金銭に評価すると少なくとも二〇〇万円を下回ることはない。

(二) 被告らの主張

原告組合の主張は否認する。

6  争点3について

(一) 原告組合の主張

被告一郎らは、遅くとも本件破産宣告時までに、原告組合との間で、浅井運送が企業閉鎖する場合は原告組合に対して組合員一人あたり二〇〇万円の割合による金員を支払う旨約束した。

浅井運送が企業閉鎖したのであるから、被告一郎らは、浅井運送の代表取締役、取締役として、右約束に従い、原告組合に対し、浅井運送をして二八〇〇万円を支払わせるべき義務があったのに、故意又は重大な過失により右義務を解(ママ)怠した。

その結果、原告組合は二八〇〇万円の損害を被った。

(二) 被告らの主張

原告組合の主張する二〇〇万円の支払約束は否認する。

7  争点4について

(一) 原告らの主張

被告花子は、浅井運送の監査役として、代表取締役、取締役であった被告一郎らの事業継続義務、説明義務及び解雇回避義務違反を監視し、これを差し止め、是正する義務が存したのに(商法二七四条一項)、これを故意又は重大な過失によって怠った。

よって、被告花子は、被告一郎らと連帯して、原告らに対し損害賠償義務を負担する(商法二七八条)。

(二) 被告花子の主張

被告花子の義務は争う。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(一)について

1  (証拠・人証略)及び弁論の全趣旨に前提事実を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 浅井運送の経営状況の概要

浅井運送は、昭和三五年八月三日、有限会社浅井運送店として設立され、昭和四〇年から大阪セメントの専属運送会社となったが、昭和五一年一二月、株式会社に組織変更し、浅井運送株式会社となった。

(1) 浅井運送は、納入先の倒産や廃業のため輸送量が減少傾向にあり、平成五年八月一日から平成六年七月三一日(第三五期)の損失金が一四一六万八五五九円となっていたが、セメント業界の不況と再編の動きの中、平成六年一〇月、専属の取引先であった大阪セメントが住友セメント株式会社と合併し、住友大阪セメントが発足した。住友大阪セメントは、経費削減の一環として、浅井運送に対して二〇パーセントの運賃の値下げを提案し、値下げをしないで欲しい旨の浅井運送からの申し入れにもかかわらず、右値下げを実行した。また、右合併以降、住友大阪セメントの特約販売店である株式会社桝谷系南都生コン、南都コンクリート産業及びその納入先が住友大阪セメントから秩父小野田セメント株式会社に移ったため、浅井運送の輸送量、売上が大幅に減少し、平成六年八月一日から平成七年七月三一日(第三六期)の未処理損失金は五七七六万九六七二円に達した。

(2) 運賃の大幅値下げと得意先の減少、賃金の上昇という事態の中で、浅井運送は運賃について住友大阪セメントと交渉を続けた結果、平成七年一〇月から、一トン当たり一七〇円増の運賃改定が実現したが、平成八年五月には住友大阪セメントの特約販売店であったマツダ建材株式会社が住友大阪セメントを離れ、三菱マテリアル株式会社に移ったため、浅井運送の輸送量は更に減少した。その結果、平成七年八月一日から平成八年六月三〇日現在(第三七期)の未処理損失金は四五二八万五九二六円となり、累積損失金が一億一七二二万四一五七円に達した。

(二) 住友大阪セメント及び原告組合との交渉経緯

(1) 浅井運送は、平成六年一二月、原告組合に対し、このままの経営状態が続くなら、会社の経営は不能となり、雇用も守れず倒産を免れないとし、協議を申し入れた。原告組合との協議において、浅井運送は取締役である被告二郎を窓口とすることになった。

被告二郎は、平成七年二月七日、ヒルトンホテルにおいて、原告組合の奥薗書記長と協議をした。被告二郎が、浅井運送が現在のように減量及び運賃カットされたままであれば倒産は必至である旨を申し入れたのに対し、奥薗書記長は、原告組合が住友大阪セメントとの間で運賃の回復と管理費、車庫費等の固定費の補填の交渉する旨申し出たため、浅井運送は、その報酬として奥薗書記長に一〇万円を交付した。

被告二郎は、同月八日、喫茶店アゼリアにおいて、原告組合の吉田副委員長と協議し、運賃については奥薗書記長が住友大阪セメントと交渉し、それ以外の事項については吉田副委員長が交渉することになったため、浅井運送は、その報酬として吉田副委員長に二〇万円を交付した。

被告二郎は、同月一五日、三黄運送の会議室において奥薗書記長と協議をした。右協議までに、固定費については住友大阪セメントが補填することになっていたが、運賃及び管理費等の固定費が補填されても、浅井運送は赤字を出して倒産状態となるため、被告二郎は、奥薗書記長に、住友大阪セメントと交渉して赤字分をも補填してもらうよう依頼したが、その後、住友大阪セメントによる赤字補填は実行されなかった。

(2) その後の協議の中で、原告組合は、住友大阪セメントとの交渉で平成七年一月分からの運賃カット分を原状回復することになった旨を被告二郎に伝えたが、住友大阪セメントは右事実を否定し、運賃の回復は実行されなかった。

浅井運送は、平成七年三月一〇日、住友大阪セメントに対し、運賃の回復がないのであれば倒産が必至なので、住友大阪セメントが浅井運送を引き取るよう申し入れたが、住友大阪セメントはこれを拒否した。運賃の原状回復がなかったため、原告組合は、平成七年四月及び同年八月の二回にわたり、住友大阪セメントの工場等において、出荷業務拒否の争議を行い、右争議により浅井運送の運賃収入が約八七九万円減少した。

被告二郎は、平成七年一二月、料亭「三玄」において、吉田副委員長と協議をした。被告二郎は、吉田副委員長に浅井運送の平成六年八月一日から同七年七月三一日まで(第三六期)の決算報告書の内容(五七七六万九六七二円の未処理損失金)を説明し、原告組合が住友大阪セメントとの運賃交渉のために行った争議の結果、売上が約八七〇万円減少し、運送量も減少したことを説明した。

(3) 被告二郎は、平成八年二月二日及び同月一〇日、吉田副委員長と浅井運送の全株式を含めた営業の売却について協議をした。原告組合において浅井運送の売却先を捜すことになっていたため、原告組合は、西井商店に買取りを打診したが、西井商店は、浅井運送に多額の債務があること及び輸送量が少ないことを理由に右買取りを拒否した。

被告二郎は、同月一〇日、ホテル「ホリディイン南海」において、奥薗書記長と協議した際、同人から、住友大阪セメントが運賃を原状回復することを認めたと言われたため、住友大阪セメントとの交渉の報酬として三〇万円を奥薗書記長に交付したが、その後、運賃は回復しなかった。

同年三月一六日、三玄での吉田副委員長と被告二郎との協議において、吉田副委員長から、結局、売却先が見つからないとの説明があった。

(4) 被告二郎は、平成八年三月二七日、三玄において、吉田副委員長と協議した。被告二郎は、同副委員長に対し、浅井運送の売却を大阪生コン株式会社の松本社長に依頼することを報告し、原告組合の意見を求めたところ、同副委員長はこれを了承した。

浅井運送は、同年四月九日、自らの売却について大阪生コン株式会社の松本社長に依頼し、松本社長が住友大阪セメントの岡本支店長に売却の件につき了解を取り付け、西井商店と交渉に入ることになった。被告二郎は、翌一〇日、三玄において、吉田副委員長にこのことを報告した。

浅井運送は、同年四月二〇日、被告二郎において西井商店との間で、売却の具体的交渉に入ったが、住友大阪セメントが運送業務契約の西井商店への引き継ぎを認めなかったため、交渉は不調に終わった。

(5) 被告二郎は、平成八年五月一三日、三玄において、吉田副委員長と協議し、西井商店との交渉が不調に終わったこと、他の輸送業者である甲寅陸運とカネミ運送にも打診したが、これも断られたことを報告し、運賃交渉も断られ、会社引取りも断られたため、浅井運送は現状のまま原告組合が引き取って自主管理をするよう申し入れた。これに対し、吉田副委員長は、重大なことなので委員長と協議することを提案した。

被告二郎は、同年六月六日、原告組合の事務所を訪れ、武委員長、吉田副委員長に対し、浅井運送の経営がこの三年間赤字続きであり会社運営ができなくなったので、今後の雇用維持のために最後の協議に来た旨申し入れ、赤字の状況やその原因及び住友大阪セメントとの交渉経緯並びに浅井運送の売却交渉の経緯等を説明した。武委員長は、運賃は回復されているし、平成七年四月及び同年八月のストによる実損も回復され、浅井運送に支払われていると主張したが、被告二郎は右事実をいずれも否定し、浅井運送が倒産状態にあるので企業閉鎖をするか、原告組合が現状のまま浅井運送を引き取るしか選択肢がないとの考えを武委員長らに伝えた。

被告二郎は、同月二二日、再度、武委員長及び吉田副委員長と協議した。被告二郎は、原告組合に対し、浅井運送の決算報告書を提出し、従業員、負債及び資産を含め、現状のままで浅井運送を引き取り、自主管理するように再度申し入れたが、原告組合はこれを拒否し、被告二郎に対し、浅井運送で借金を返済して担保を外し、三和、阪和運送及び浅井石材といった関連会社もまとめて整理し、人員削減することを提案し、右提案の見通しが立ったら次回の協議日程を連絡するよう求めた。

(三) 本件破産申立、本件解雇及びその後の紛争等

(1) 被告一郎らは、平成八年七月一日、右の提案の見通しが立たないと判断して浅井運送の白己破産の申立に同意し、浅井運送は、同月八日、原告組合との協議日程を連絡しないまま大阪地方裁判所に本件破産申立をした(大阪地方裁判所平成八年(フ)第一七六八号)。

浅井運送は、平成八年七月一〇日、当座預金から残金一〇〇万円を引き出したため、浅井運送振出で同日が満期日の額面七六万円の約束手形(受取人は相互自動車株式会社)が不渡りとなった。

(2) 被告一郎及び同二郎は、平成八年七月一五日、浅井運送の従業員(原告板倉を含む二名を除く一二名)に対し、浅井運送が平成六年から赤字が続き、倒産状態となったこと及びその原因並びに浅井運送の窮状を打開すべく住友大阪セメントや原告組合らと再三交渉したが、解決策が見つからなかったこと、資金不足のため、従業員に支払うべき一時金は月末まで支払えないこと等を説明した。原告板倉はこの説明会に欠席していたが、翌日までに原告組合から右説明会での浅井運送の説明内容を聞いた。

浅井運送は、平成八年七月一九日、原告板倉らを含む一四名の従業員全員に対し、同人らを同月二〇日付で解雇する旨の本件解雇をした。右両日、宮崎県において、原告組合の組合活動の一環としてバラセメント労働者交流会の研修旅行が実施され、原告板倉らのうちの何名かがこれに参加していた。

被告二郎は、同月一九日、三玄において、吉田副委員長に対して、本件破産申立及び本件解雇をしたことを説明した。吉田副委員長は、被告二郎に対し、本件解雇を直ちに撤回するよう求めたが、被告二郎はこれに応じなかった。

(3) 大阪地方裁判所は、平成八年七月二九日、一億七〇九五万一六七一円の債務超過を認定し、本件破産宣告をなした。

本件破産宣告に対し、原告板倉らは、平成八年八月二六日、本件解雇の無効及び破産原因の不存在並びに破産宣告申立権の濫用を主張し、本件破産宜(ママ)告の取消しを求めて大阪高等裁判所に対して即時抗告の申立をなした(大阪高等裁判所平成八年(ラ)第七一九号破産決定に対する即時抗告事件)。大阪高等裁判所は、同年一二月二六日、「一件記録によれば、浅井運送が、平成八年七月二九日当時、三九名の債権者に対して合計約三億円余りの債務を負担し、これが支払不能の財産状態にあることが認められる。」「本件破産申立及び解雇は、浅井運送が、倒産状態に陥り、やむを得ずなされたものであることが明らかであるから、不当労働行為に該当するとは言えず」として原告板倉らの主張をいずれも排斥し、右即時抗告の申立を棄却した。

原告板倉らは、平成八年九月三日、本件解雇の無効を主張し、大阪地方裁判所に地位保全及び賃金仮払の仮処分を申し立てたが(同庁平成八年(ヨ)第二二九二号)、平成九年一月七日、右申立を取り下げた。また、原告板倉らは、平成八年一〇月七日、浅井運送の破産手続での第一回債権者集会において、浅井運送の営業を継続すべき旨の決議を行ったが、同日、破産裁判所は、「営業継続により破産財団に利益をもたらす見込みがあるとは認められない」として、右決議の執行禁止を決定した。

原告らは、平成九年一月一六日、破産裁判所に対し、「慣行による労働組合への解決金」及び「慣行ないしは黙示の合意に基づく退職金加算金」を含む破産債権届出書を提出したが、翌一七日の債権調査期日において、破産管財人が一部異議を述べた。そこで、原告らは、破産債権確定訴訟を提起したが(大阪地方裁判所平成九年(ワ)第九二九号)、大阪地方裁判所は、同年一二月二四日、原告らの請求をいずれも棄却する判決をした。

2  右認定事実によって検討する。

(一) 破産原因の存在

まず、原告らは、浅井運送に破産原因はなかったと主張するが、仮に「慣行による個人への解決金七九〇二万三三三六円」及び「慣行による労働組合への解決金二八〇〇万円」を除外したとしても、浅井運送は、本件破産申立の時点で六〇〇〇万円以上の債務超過であったし、二億四〇〇〇万円程度の債務を負担していて支払不能の状態にあったことが明らかであるから、破産原因がなかったということはできない。

これに対し、原告板倉らは、浅井運送が債務超過になったのは、本件解雇によって退職金債務等を負担したことによるもので、本件解雇がなければ債務超過ではなかったし、当座預金から一〇〇万円を引き出して手形を不渡りにしたのも意図的に支払停止を作出したものであると主張する。

しかしながら、後述のとおり、浅井運送は本件破産申立当時、数年来の累積損失を抱え、業績向上の見通しもなかったのであるから、事業継続が不能な状況に陥っていたのであり、そうすると従業員全員の解雇もいずれは免れなかったものというべきであるし、浅井運送が、約束手形を不渡りとしたことも、浅井運送の当時の経営状態や財務状況に加え、本件破産申立の時点で、右以外にも、同年八月二日及び同年九月二日を支払期日とする額面三五万三四二〇円の約束手形各一通を振り出すなどしていた(<証拠略>)ことなどからすると、手形の不渡を出すなどして支払停止に至ることも早晩さけられない状況であったと認められ、これらが意図的に破産原因を作出したものであるということはできない。

(二) 事業継続義務違反

事業を継続するか否かは本来的に経営者の裁量にかかる事項であるところ、取締役がその経営見通しによって、業績向上を図ることができず、このままでは累積損失が増大し、債権者に対する債務や従業員に対する退職金債務の弁済が一層困難となることが予想される場合に早期に事業閉鎖を決定したとしても、これが取締役としての義務違反となるものではない。そして、右認定のとおり、浅井運送の経営は徐々に悪化し、本件破産申立時点では一億円を超える多額の累積損失を計上していたもので、これに対し、業績の好転につながるような事情は格別認められず、そのまま事業を継続したとしても、累積損失をいたずらに増大させることにしかならず、業績の回復に至る客観的な可能性があったとはいい難い。

したがって、浅井運送はもはや事業継続が不能な状況に陥っていたというべきであって、このような状況においてなお被告一郎らが、浅井運送に対して事業継続義務を負っていたということはできず、右義務違反をいう原告板倉らの主張は理由がない。

(三) 説明義務及び解雇回避義務

(1) 説明義務違反の有無

右認定事実によれば、確かに、本件破産申立及び本件解雇それ自体については、被告一郎らは事前に原告板倉ら及び原告組合に対して明確に説明をせず、事後的な説明をしたに過ぎないのであるが、被告一郎らは、被告二郎が中心となって、浅井運送の経営が悪化し始めた平成六年の年末以降、平成八年六月二二日の協議に至るまでの間、原告組合の武委員長、吉田副委員長及び奥薗書記長らと再三にわたり協議を繰り返し、そのなかで決算報告書等を示し数字を挙げるなどして具体的に浅井運送の経営の窮状を訴え、倒産状態に至っていることなどを説明してきているのであるから、破産申立が対外的に及ぼす影響の重大さに鑑みれば、破産申立及びこれに伴って解雇することを従業員や労働組合に説明しなくても、説明義務違反があったとまでいうことはできない。

(2) 解雇回避義務の存否及びその違反の有無

原告板倉らは、本件解雇が整理解雇に当たることを前提として、被告一郎らが解雇回避の努力義務を怠ったと主張するものであるところ、浅井運送に破産原因が認められることは前述のとおりであり、法人の破産においては従業員との雇用関係を含め、その全財産を清算することが予定されているのであるから、企業が存続することを前提とする整理解雇の法理は適用されないというべきである。

したがって、本件解雇が整理解雇に当たることを前提にして、被告一郎らが希望退職の募集や配転の可能性等を探索すべき解雇回避のための努力義務を負うという原告板倉らの主張は失当である。

もっとも、本件解雇が整理解雇か否かにかかわらず、企業経営者は、不必要な解雇を回避し、従業員の雇用確保に努力すべきであるが、そのために個人資産まで提供して事業経営を継続しなければならない義務まで負うものではない。原告板倉らは、被告らが浅井運送の敷地、建物その他多くの個人資産を保有しており、それを利用すれば浅井運送の経営の安定を図ることが可能であったと主張するが、被告らが浅井運送の法人格を濫用し、もしくは法人格が形骸化していたなどの特段の事情は認められないから、被告らが個人資産まで提供して原告板倉らの雇用確保の努力をしなければならない法的義務はないというべきであり、この点の原告板倉らの主張も採用できない。

(四) 被告らの商法二六六条の三による損害賠償責任の有無

右のとおり、被告一郎らに、原告板倉らの主張するいずれの義務違反も認めることはできないから、その余の点を判断するまでもなく、原告板倉らの被告らに対する損害賠償請求はいずれも理由がない。

二  争点2(一)について

1  (証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、本件協約を文書化した昭和五二年五月一七日付協定書には、中央統一要求として「事前協議について会社は移転、転勤、配置換、出向、降格、一時帰休、休業解雇など現行の労働条件を変更するときは組合と誠意をもって交渉し、一致点を見つけるよう努力する。」と記載されており、組合基本要求も「組合員に影響を与える問題(身分・賃金・労働条件等)については、会社は事前に組合と協議して労使合意のうえ円満に行う。」というものであったが、原告板倉が昭和五一年に起こした傷害事件にかかる解雇問題の影響で、浅井運送が解雇(身分)を事前協議の対象とすることを拒んだため、結局、「身分」の文言が削除され、労使間で「組合員の賃金・労働条件の変更等については、労使が協議して解決するものとする。」との合意に達したことが認められる。

2  右認定事実によれば、本件協約において、解雇を事前協議の対象とする合意がなされていたとは認められず、これを前提とする原告組合の請求は理由がない。

三  争点3について

浅井運送が、原告組合に対し、企業閉鎖の場合には解決金として組合員一人当たり二〇〇万円を支払う旨約したとの事実は、これを認めるに足りる証拠がない(<証拠略>によれば、浅井運送は、その破産宣告手続において、負債として「慣行による労働組合への解決金」として、従業員一名当たり二〇〇万円で計算した二八〇〇万円を計上していたことが認められるが、右債務については、すでに破産管財人を被告とする破産債権確定訴訟で原告板倉らの敗訴が確定している。)。

したがって、右合意を前提とする、原告組合の請求には理由がない。

第四結論

以上の次第で、原告らの被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないので、棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 松尾嘉倫 裁判官 和田健)

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